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福岡地方裁判所 昭和45年(行ウ)18号 判決 1981年8月24日

原告 早川進 外二〇八名

被告 北九州市長

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告田村広、同中村金太郎、同山内一郎、同丸本時義、同菅野丈次、同大山末良、同白井常男及び同山川春光に対し昭和四五年二月一七日付で、同松崎辰夫に対し同月二一日付で、その余の原告らに対し同年一月三一日付でなした各懲戒処分(別表(一)記載の原告らに対し同表「処分」欄記載の各処分、別表(二)及び(三)記載の原告らに対し給与日額二分の一の減給、別表(四)及び(五)記載の原告らに対し戒告の各処分)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、昭和四五年一月及び二月当時、別表(一)ないし(五)「職名(職種名)」欄記載の職種にあつて「所属」欄記載の部局に勤務していた単純な労務に雇用される北九州市(以下単に「市」という場合は「北九州市」を指す。)職員であり、いずれも北九州市役所労働組合(以下「市労」という。)に加入していた。

被告は、北九州市長であつて原告らの任命権者である。

2  被告は、原告田村広、同中村金太郎、同山内一郎、同丸本時義、同菅野丈次、同大山末良、同白井常男及び同山川春光に対し昭和四五年二月一七日付で、同松崎辰夫に対し同月二一日付で、その余の原告らに対し同年一月三一日付で懲戒処分(別表(一)記載の原告らに対し同表「処分」欄記載の各処分、別表(二)及び(三)記載の原告らに対し給与日額二分の一の減給、別表(四)及び(五)記載の原告らに対し戒告の各処分。以下「本件処分」という。)をなした。

3  しかし、本件処分は何ら法律上正当な処分事由がないにもかかわらずなされたものであるから、原告らは、その処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因12の事実は認める。

2  同3は争う。

三  抗弁

1  一一月一三日の争議行為

(一) 争議行為に至る経緯

(1) 全日本自治団体労働組合(以下「自治労」という。)は、昭和四四年八月二六日(以下昭和四四年中については月又は月日のみで示す。)から四日間第一九回定期大会を開催し、同年の運動方針として、人事院勧告の完全実施、安保条約廃棄、沖繩即時返還を闘い抜くため一一月中旬にストライキを実施することを決定した。

更に、自治労、日教組、全農林などで組織している公務員共闘会議も、一〇月二三日人事院勧告の完全実施、安保条約廃棄、沖繩即時返還を要求して、総評の全国統一行動日に一時間以上にわたるストライキを実施することを確認し、その旨のストライキ宣言を発した。

(2) 北九州市においては、市労が、右自治労の決定に基づいて、九月二五日の定期大会で全国統一行動日にはストライキで臨むことを決め、また、自治労北九州市職員組合(以下「市職」という。)及び自治労北九州市職員労働組合(以下「市職労」という。)も、それぞれ闘争委員会を開催して全国統一行動の具体的方針を協議した。

その結果、一〇月二五日に至り、市労及び市職の属する自治労北九州市職員労働組合連合会(以下「市労連」という。)と市職労が、全国統一行動を含む秋季年末闘争を共闘して推進することを確認し、共闘組織として北九州市役所秋季年末共同闘争委員会(以下「市役所共闘会議」という。)を設置した。その後、各区においては、市役所共闘会議の下部機構として区役所共闘会議が遂次組織され、各職場においては、市役所共闘会議の運営及び統一行動に関する教宣活動が、市労などの組合役員によつて頻繁に行なわれた。

(3) このような状況から、市当局は、一一月一三日は違法な争議行為の行なわれることが予想されたので、同月一一日市労、市職及び市職労に対し、違法な争議行為を行なわないよう警告書を手交し、また、同月一二日全職員に対して違法な争議行為に参加しないよう自重を求める旨の警告書を交付するとともに、同様の警告文を本庁及び各区役所等に掲示し、更に、同月一三日は定刻に出勤し職務に従事するよう命じた職務命令書を交付した。

しかしながら、同月一二日組合側は、市役所共闘会議議長片岸真三郎名をもつて、翌一三日は始業時刻から一時間三〇分に及ぶ勤務時間内集会を実施する旨の事前通告をなし、一三日、予定どおり争議行為に突入した。

(二) 争議行為の概況

(1) 門司区の状況

門司区においては、門司区役所を中心として、その他本庁の出先の各施設を含め、市長事務部局職員約八二〇名のうち約三三〇名が始業時刻に至るも出勤せず、その職務を放棄した。

(2) 小倉区の状況

小倉区においては、小倉区役所及び清掃事務所を中心として、その他本庁の出先の各施設を含め、市長事務部局職員約一七六〇名のうち約五〇〇名が始業時刻に至るも出勤せず、その職務を放棄した。

特に、小倉西清掃事務所においては、一一月一二日原告今浪光雄により、同事務所所長大津正が拒否したにもかかわらず、同所長が職員に交付した職務命令書及び警告書の一括返上が強行された。翌一三日は、原告早川進の積極的な集会参加の呼びかけが行なわれ、午前七時四五分ころから同事務所二階作業員控室において、原告今浪光雄、同早川進、同下原浜雄及び同牧野茂夫の指導により無届の職場集会が開催され、同事務所職員約一七〇名のうち一一四名の職員が始業時刻から二八分間その職務を放棄した。

(3) 八幡区の状況

八幡区においては、八幡区役所を中心として、その他本庁の出先の各施設を含め、市長事務部局職員約一七一〇名のうち約三四〇名が始業時刻に至るも出勤せず、その職務を放棄した。

特に、八幡西清掃事務所においては、一一月一二日、市労委員長佐伯正之から同事務所所長市原義雄に対し、同委員長名による一一月一三日スト実施の通告がなされ、更に、同委員長により、同所長が職員に対して交付した職務命令書及び警告書の一括返上などがなされた。

(4) 戸畑区の状況

戸畑区においては、戸畑区役所裏の庁舎敷地内において、始業時刻が午前八時と定められている現業関係職員を主体とする集会が、市役所共闘会議事務局長である原告下原広志らの指導により、午前七時三五分ころから同八時二五分ころまで行なわれ、更に、午前八時三五分ころから同所において、始業時刻が午前九時である一般職員を主とする集会が、同原告らの指導により同九時一〇分ころまで行なわれた。また、建設局庁舎である同区川代二丁目所在の海岸ビルの屋上においても、午前八時三〇分ころから同九時二〇分ころまで勤務時間にくい込む一般職員の集会が行なわれた。このため、同区所在の各施設(本庁を含む。)においては、市長事務部局職員約二一八〇名のうち約四〇〇名が始業時刻に至るも出勤せず、その職務を放棄した。

2  一二月二九日、三〇日及び三一日の争議行為

(一) 争議行為に至る経緯等

(1) 正月を控えて、年末にその年の最後の大掃除をして越年することは、わが国古来のしきたりであり、市民の切実な要求でもある。北九州市においても、年末に各家庭や事業所等が排出したし尿や多量のごみを完全に処理するため、例年、清掃関係の職員が、年末の休日に出勤して特別清掃業務を行なつていた。このことは、北九州市発足前(昭和三八年二月一〇日前)の旧五市時代から一貫して行なわれてきたものであり、これが清掃関係職員の常態となつていた。

なお、北九州市に勤務する単純労務職員の就業に関する事項は、北九州市労務職員就業規則に定められ、同規則は、一三条で日曜日を「勤務を要しない日」と定めるとともに、一四条一項で国民の祝日に関する法律に規定する日並びに一月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日及び同月三一日を「休日」と定めているが、同条二項は「市長は、業務のつごうにより特に必要な場合には、労務職員に対し、休日に勤務することを命ずることができる。」と定めている。市当局は、年末清掃業務を右の「業務のつごうにより特に必要な場合」にあたるとして、実施しているものである。

(2) 北九州市当局は、昭和四四年の年末清掃業務を例年どおり実施する計画で年末休日勤務に関する労働条件について、一一月二六日市労と第一回目の団体交渉をもち、次の提案を行なつた。

<1> 休日勤務を命ずる日及び就業時間

一二月二九日 午前八時から午後四時まで

一二月三〇日 右同

一二月三一日 午前七時から午後三時まで。但し、特に指定する一部の者には夜間勤務として午後八時から午後一二時まで

<2> 休日勤務手当

実働時間に対する休日勤務手当のほか、更に、勤務一日について五〇〇円、三一日の夜間勤務について二五〇円をそれぞれ加算支給する。

市側のこの提案に対しては組合側は、

(ア) 手当の加算額五〇〇円に積み上げをすること。

(イ) 実働時間に水増しした時間数に対する超過勤務手当(いわゆる「やみ超勤」)を支給すること。

等の要求をして譲らなかつた。

右組合要求の(ア)については、北九州市職員の給与に関する条例(昭和三八年条例第二四号附則二〇項)に規定された最高額を支給するもので、その額は、他の政令指定都市のそれと比較して必らずしも低い額ではなく、年末休日に勤務する他の職種の職員との均衡のうえからも引き上げには応じられないところであつた。また、(イ)のいわゆる「やみ超勤」については、勤務に服さない時間に対し、超過勤務手当を支給するものであつて、その違法なることはいうまでもなく、市がこのようなことをすることは不可能である。

市側は、このような事情を組合側に十分説明し、一二月四日、同月八日と第二回目、第三回目の交渉を重ねたが、合意に達しなかつた。そこで、市としては、年末清掃についての作業計画や市民への周知等の日程を考慮して、同月一三日の第四回目の団体交渉で妥結したいと考え、鋭意交渉にあたつたが、妥結するに至らなかつた。

一二月一九日、福岡県地方労働委員会(以下「地労委」という。)から「双方誠意をもつて交渉し、円満解決を図るよう。」との趣旨の勧告が出されたので、市側は、勧告の趣旨にそつて事態を解決すべく、一二月二三日に第五回目の団体交渉を行なつたが、意見の一致をみなかつた。

(3) このため、市としては、年末清掃業務に支障を生じた場合の市民生活に与える影響の重大性を考慮して、一二月二五日清掃関係職員に対し、被告市長名で一二月二九日、三〇日及び三一日の休日に勤務するよう「休日および時間外勤務命令書」を交付した。

(4) このような状況の中で、市労は、一二月二七日清掃関係組合員に対して、同月二九日から三一日までの間休日勤務をしないよう指令を発し、実力行使の態勢を決めたのである。

一二月二八日、地労委から円満妥結に至るよう勧告されたので、市当局は、同日ただちに組合側に対し、翌二九日に交渉を行ないたい旨の通知をするとともに、同二九日以降の休日出勤拒否を行なわないよう申し入れたが、組合側は、交渉を待たず、予定どおり同日から一斎出勤拒否の違法争議行為に突入した。

(二) 争議行為の概要

以上のとおり、市当局は誠意をもつて組合側と交渉を行ない鋭意説得に努めたが、市職労は、一二月一七日に、市労は、同月二七日に、それぞれ清掃関係組合員に対し年末清掃出勤拒否を指示するとともに、同月二九日から同月三一日までの間において、市の就労命令に従つて出勤してきた自動車運転手、清掃作業員らに対し、組合役員が積極的に不就労を呼びかけるなどして違法な争議行為に突入した。このため、清掃作業員ら総数約一四五〇名のうち、出勤したものは一二月二九日約三四〇名、同月三〇日約四二〇名、同月三一日約四三〇名にすぎず、年末清掃業務の正常な運営が著しく阻害され、このまま放置すれば年末清掃がまひする事態に立ち至つた。

しかし、市が毎年行なう年末特別清掃は、旧五市時代から市民の間に深く定着した必要不可欠のものであり、違法争議行為によるものであつても、市民に迷惑を及ぼすことだけは最少限にくい止める必要があるため、市当局は、緊急措置として、一二月二九日から同月三一日までの間に清掃事業局以外の部局から延約四六〇名にのぼる管理職員、延約二二〇名の臨時雇用の作業員を急遽投入するとともに、臨時の民間業者委託による車両延二六〇台、臨時作業員ら延約一〇六〇名を投入して、鋭意ごみ、し尿の収集、処理にあたつた結果、ごみについてはどうにか市民の非難をうけない程度の処理ができたけれども、し尿については通常の二ないし三割しか処理できなかつた。

(三) 各清掃事務所の状況

(1) 門司清掃事務所の状況

一二月二九日、組合の出勤拒否指令に従つて、大部分の自動車運転手、清掃作業員らが出勤せず、一応出勤してきた一〇数名の清掃作業員らに対しても、原告松本征幸、同矢狭清光及び同島内一雄らの組合役員による不就労の説得が強くなされるとともに、同事務所所長村上光良の就労命令に対する妨害がなされたため、これらの清掃作業員らもやむなく就労せずに退庁した。このようなことにより、同事務所作業員ら二一〇名中同日の出勤者はわずか九名にすぎず、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

同月三〇日は、大部分の清掃作業員らが出勤しなかつたが、一応同事務所まで出勤してきていた清掃作業員らに対し、原告中野公雄及び同松本征幸により、組合の指示に従つて就労しないようにとの強い呼びかけが行なわれ、原告島内一雄及び同矢狭清光により、作業に出ようとする清掃作業員に対し不就労の強い呼びかけがなされるなど組合役員による就労妨害がなされた。このため、同日の出勤者は、わずか三九名にすぎず、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

同月三一日、午前七時一〇分ころから同八時五分ころまでの間、市労役員らによる応援管理職員に対する抗議が行なわれ、組合の出勤拒否指令に従つて大部分の清掃作業員らが出勤せず、同日出勤したのはわずか四一名にすぎず、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

(2) 小倉西清掃事務所の状況

一二月二七日、市労委員長佐伯正之名による年末出勤拒否の指令書が同事務所作業員控室に貼り出された。

同月二九日午前七時ころ、原告下原浜雄、同今浪光雄、同竹村信芳及び同岩本節男らを含む組合役員など一〇数名が、同事務所前広場に来て、出勤してくる作業員に対する就労拒否説得の態勢がとられ、大部分の自動車運転手、清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令により出勤せず、その職務を放棄した。同日の出勤者は、清掃作業員ら一五四名中二六名にすぎず、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。このため、当局が、午前八時四五分ころ、他部局からの応援管理職員及び委託業者による作業態勢をととのえ、清掃車約二〇台を同事務所構内から順次出発させようとしていたところ、原告早川進、同下原浜雄らを含む組合役員が、先頭車の前に立ちふさがるなどして清掃車の出発を妨害し、また、先頭車に続いて出発しようとしていた他の清掃車に原告今浪光雄が飛び乗り、応援管理職員及び民間委託業者を清掃車に乗せて出発するのを妨害する目的で、運転席に財布を置き、、フロントガラスに千円札を貼るなどして清掃車の出発を妨害したため、午前九時三九分に至るまで先頭車の出発が遅れ、後続の全車輛の出発が終了したのは同一〇時一二分ころとなり、同事務所の業務が著しく阻害された。

同月三〇日、出勤したのはわずか二五名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否指令に従つて出勤せず、その職務を放棄したため、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。更に、同日午前八時七分ころから同九時三五分ころまでの間、同日の休日出勤を拒否している原告岩本節男、同今浪光雄、同下原浜雄、同吉川清政らが同事務所に来て、清掃作業員らの休日出勤拒否による市民への影響を最小限度にくいとめるための措置を講じていた同事務所所長大津正に対して執拗に抗議し、翌三一日は出勤命令に従つて就労している作業員らを清掃車から引きずり降ろしてでも作業員らの就労を阻止するなどといつて、年末清掃業務を妨害する態度を示した。

同月三一日午前六時ころ、何者かによつて同事務所のゴミ車二一台中一九台の車のタイヤがいずれも鋭利な刃物で刺傷され、空気が抜かれるなどの妨害行為が行なわれた。同日の出勤者は、わずか二一名にすぎず、大部分の作業員らが組合の出勤拒否の指令に従つて出勤せず、その職務を放棄したため、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

(3) 八幡東清掃事務所の状況

同事務所所属の自動車運転手及び清掃作業員ら二二八名中、一二月二九日の出勤者は七九名、同月三〇日は八九名、同月三一日は九三名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従つて出勤せず、その職務を放棄したため、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

(4) 八幡西清掃事務所の状況

同事務所所属の自動車運転手及び清掃作業員ら二六〇名中、一二月二九日の出勤者は七九名、同月三〇日は一一一名、同月三一日は一一七名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従つて出勤せず、その職務を放棄したため、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

(5) 戸畑清掃事務所

同事務所所属の自動車運転手及び清掃作業員ら一五三名中、一二月二九日の出勤者は一七名、同月三〇日は一九名、同月三一日は二四名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否指令に従つて出勤せず、その職務を放棄したため、同事務所の業務の正常な運営が著しく阻害された。

3  原告らの違法行為及び処分の根拠法条

(一) 原告早川進について

原告早川は、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労小倉支部支部長をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日、午前七時五三分ごろ小倉西清掃事務所事務室において、指導員に対し、勤務時間内職場集会に参加するよう呼びかけ、また、始業時刻の午前八時ごろから、同事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務につくよう命じたにもかかわらず、原告今浪光雄、同下原浜雄とともにこれを無視して約三〇分間にわたり自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めて、その職務を放棄させ、勤務時間にくいこむ職場集会を主宰指導した。

(2) 一二月二九日、午前八時四五分ころ、小倉西清掃事務所構内出入口において、原告下原広志、同下原浜雄、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする塵芥清掃車の前に立ちふさがり、同事務所副所長らが、再三、阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつて同車の出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害した。

(3) 一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず、無断欠勤した。

原告早川の右行為は、地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)一一条一項に違反するとともに地方公務員法(以下「地公法」という。)三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告早川に対し停職六月の懲戒処分をした。

(二) 原告下原広志について

原告下原は、一一月及び一二月当時技術吏員(二種業務員((防疫員)))として市衛生局衛生部防疫所に所属し、自治労福岡県本部執行委員、市労本部特別執行委員をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一二日午前一〇時五〇分ごろ、建設局庁舎におもむき、建設局下水道部施設課その他において、古本施設課長らが勤務時間中の教宣活動を制止したにもかかわらず、執務中の職員に対して、同行者とともに、一一月一三日の争議行為に参加するよう呼びかけた。

(2) 一一月一三日、午前七時三五分ごろから同八時二五分ごろまで及び同八時三五分ごろから同九時一〇分ごろまでの二回にわたり戸畑区役所裏広場において、戸畑区所在の各施設の職員約四〇〇名を集めてその職務を放棄せしめ、勤務時間にくいこむ職場集会を市職労役員とともに主宰指導した。

(3) 一二月二九日、午前八時四五分ごろ、小倉西清掃事務所構内出入口において、原告早川進、同下原浜雄、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする塵芥清掃車の前に立ちふさがり、同事務所副所長らが、再三、阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつて同車の出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害した。

原告下原の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号、三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告下原に対し停職四月の懲戒処分をした。

(三) 原告今浪光雄について

原告今浪は、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労小倉支部書記長をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日、始業時刻の午前八時ごろから、同清掃事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務につくよう命じたにもかかわらず、原告早川進、同下原浜雄とともに、これを無視して約三〇分間にわたり自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めてその職務を放棄させ、勤務時間にくいこむ職場集会を主宰指導した。

(2) 一二月二九日、午前九時ごろ、小倉西清掃事務所構内出入口において、原告早川進、同下原浜雄、同竹村信芳らが作業に出発しようとする塵芥清掃車の前に立ちふさがつて停車させるなどしてその進行を妨害した際、後続の清掃車の運転席に財布を投げ込み、つづいて同車に乗りこみ、フロントガラスにセロテープでもつて千円札を貼りつけ「この車には俺の私物がのつているぞ」と大声で言つて清掃車の出構を妨害し、同事務所の正常な運営を著しく阻害した。

(3) 一二月三〇日、午前八時五分ごろから同九時三五分ごろまでの間、小倉西清掃事務所事務室において、同所所長大津正らに対し、原告下原浜雄、同岩本節男、同吉川清政らとともに、口口に「なぜ、作業員を就労させたか。」「出勤場所はどこか。」「指導員になぜ命令したか」などと大声をあげて抗議し、また、市当局が市民向けに配布しようとした年末清掃に関するビラに文句をつけ、更に「もし明日作業員が就労していたら車から引きずり降ろすぞ。」などと大声でつるしあげるなどの行為をなし、同所長らの業務の執行を妨害した。

(4) 一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日勤務命令に従わず無断欠勤した。

原告今浪の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告今浪に対し停職三月の懲戒処分をした。

(四) 原告下原浜雄について

原告下原は、一一月及び一二月当時技術吏員(自動車運転手)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労本部執行委員をしていたものであるが、次の違法行為した。

(1) 一一月一三日、始業時刻の午前八時ごろから、小倉西清掃事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務につくよう命じたにもかかわらず、原告早川進、同今浪光雄らとともにこれを無視して自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めてその職務を放棄させ、勤務時間内職場集会を主宰指導した。

(2) 一二月二九日、午前八時四五分ごろ、同清掃事務所構内出入口において、原告下原広志、同早川進、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする塵芥清掃車の前に立ちふさがり、同所副所長田中信男らが、再三、阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつて同車の出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害した。

(3) 一二月三〇日、午前八時五分ごろから同九時二〇分ごろまでの間、同清掃事務所事務室において、同所所長大津正に対し、原告今浪光雄、同岩本節男、同吉川清政らとともに、口口に「なぜ、作業員を就労させたか。」「出勤場所はどこか。」「指導員になぜ命令したか。」などと大声をあげて抗議し、また、市当局が市民向けに配布しようとした年末清掃に関するビラに文句をつけるなどの行為をなし、同所長らの業務の執行を妨害した。

(4) 一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず無断欠勤した。

原告下原の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告下原に対し停職三月の懲戒処分をした。

(五) 原告竹村信芳について

原告竹村は、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労小倉支部執行委員をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄した。

(2) 一二月二九日、午前八時四五分ごろ、小倉西清掃事務所構内出入口において、原告下原広志、同下原浜雄、同早川進、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする塵芥清掃車の前に立ちふさがり、同事務所副所長田中信男らが、再三、阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつて同車の出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害した。

(3) 一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず、無断欠勤した。

原告竹村の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告竹村に対し停職二月の懲戒処分をした。

(六) 原告岩本節男及び同吉川清政について

原告岩本及び同吉川は、いずれも一一月及び一二月当時技術吏員(原告岩本は自動車運転手、同吉川は清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属していたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄した。

(2) 一二月二九日、午前八時四五分ごろ、小倉西清掃事務所構内出入口において、原告下原広志、同下原浜雄、同竹村信芳、同早川進らとともに作業に出発しようとする塵芥清掃車の前に立ちふさがり、同事務所副所長田中信男らが、再三、阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつて同車の出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害した。

(3) 一二月三〇日、午前八時五分ごろから同九時二〇分ごろまでの間、同事務所事務室において、同所所長大津正に対し、原告下原浜雄、同今浪光雄らとともに、口口に「なぜ、作業員を就労させた。」「出勤場所はどこか」「指導員になぜ命令したか。」などと大声をあげて抗議し、また、市当局が市民向けに配布しようとした年末清掃に関するビラに文句をつけるなどの行為をなし、同所長らの業務の執行を妨害した。

(4) 一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず、無断欠勤した。

原告岩本、同吉川の右各行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、右原告らに対し各停職二月の懲戒処分した。

(七) 原告矢狭清光について

原告矢狭は、一一月及び一二月当時技術吏員(自動車運転手)として市清掃事業局門司清掃事務所に所属し、市労門司支部書記長をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄した。

(2) 一二月二七日、午前八時一〇分ごろ、門司清掃事務所大里作業所二階作業員控室において、在室の同事務所職員約三〇名に対し、年末清掃作業を拒否するよう原告島内一雄及び佐伯正之市労委員長とともに呼びかけた。

(3) 一二月二九日、午前八時四五分ごろ、同事務所所長村上光良らが、作業員を作業配置につかせるため、同二階詰所におもむき、作業員一〇数名に対し、一〇分以内に着替えて作業につくよう命令したところ、原告松本征幸とともに「今日は仕事せんで帰ろう。」などと大声をあげて就労拒否の呼びかけを行なうなど、所長らの業務の執行を妨害した。

(4) 一二月三〇日、午前八時一五分ごろ、原告島内一雄とともに、同清掃事務所大里作業所二階作業員控室出入口において、就労しようとして階段をおりかけた同事務所職員に対して「なぜ、組合に協力しないのか」などと執拗に呼びかけ、就労を妨害した。

(5) 一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず、無断欠勤した。

原告矢狭の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告矢狭に対し停職二月の懲戒処分をした。

(八) 原告島内一雄について

原告島内は、一二月当時技術吏員(自動車運転手)として門司区役所会計課に所属し、市労本部書記長、市労門司支部支部長をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一二月二七日、午前八時一〇分ごろ、門司清掃事務所大里作業所二階作業員控室において、在室の同事務所職員約三〇名に対し、年末清掃作業を拒否するよう原告矢狭清光及び佐伯正之市労委員長とともに呼びかけた。

(2) 同日、午後三時三〇分ごろ、門司清掃事務所大里作業所二階作業員控室におもむき、在室の同清掃事務所清掃作業員ら約五〇名に対し、年末清掃作業を拒否するよう呼びかけた。

(3) 同月二九日、午前八時四六分ごろ、門司清掃事務所大里作業所一階作業員詰所において、同清掃事務所の所長村上光良が、在室の同清掃事務所清掃作業員五名に対し、一〇分以内に着替えて作業につくよう命令したのに対し、大声をあげて同命令の示達を妨害した。

(4) 同月三〇日、午前八時一五分ごろ、原告矢狭清光とともに、同清掃事務所大里作業所二階作業員控室出入口において、就労しようとして階段を降りかけた同清掃事務所職員に対して「なぜ、組合に協力しないのか。」などと執拗に呼びかけ、就労を妨害した。

原告島内の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号、三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告島内に対し停職一月の懲戒処分をした。

(九) 原告中野公雄について

原告中野は、一一月及び一二月当時技術吏員(自動車運転手)として市建設局門司建設事務所失業対策課に所属し、市労門司支部副支部長をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄した。

(2) 一二月三〇日、午前七時五六分ごろ、門司清掃事務所におもむき、同所二階詰所の出入口附近に立つて、市の就労命令に従つて同詰所に出勤してきた清掃作業員らに対し「外に出てくれ。」などと就労拒否の呼びかけを行ない、更に、午前八時ごろから原告松本征幸とともに、同詰所内に入りこみ、作業準備中の作業員ら約三〇名に対し、組合の出勤拒否の指令に従うようオルグを行なうなどして、所長らの業務の執行を妨害した。また、同日、午後零時四〇分ごろ、同事務所二階会議室において、同日出勤している作業員らに対し、市労役員らとともに「組合の指令を守れんのか」「何で仕事をするのか」などと出勤拒否の説得を行なつた。

原告中野の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告中野に対し減給給与日額二分の一の懲戒処分をした。

(一〇) 原告松本征幸について

原告松本は、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局門司清掃事務所に所属し、市労門司支部執行委員をしていたものであるが、次の違法行為をした。

(1) 一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄した。

(2) 一二月二九日、午前八時四五分ごろ、門司清掃作業所の所長村上光良らが、作業員を作業につかせるため、同清掃事務所二階詰所におもむき、作業員一〇数名に対し、一〇分以内に着替えて作業につくよう命令したところ、原告矢狭清光とともに「今日は仕事をせんのだ。」「今日は仕事せんで帰ろう。」などと大声をあげて就労拒否の呼びかけを行なうなど、所長らの職務の執行を妨害した。このため、同詰所にいた清掃作業員らは、やむなく就労せずに退庁した。

(3) 同月三〇日、午前八時ごろ、原告中野公雄とともに、同清掃事務所二階作業員詰所に入りこみ、作業準備中の清掃作業員ら約三〇名に対し、就労しないように呼びかけて所長らの職務の執行を妨害した。更に、同日、午前八時四〇分ごろ、同詰所内にいた自動車運転手に対し、同清掃事務所業務第一係長木原進が、仕事につくよう命令していたところ、同係長に対し大声で「木原、家におれよ。おぼえておけ。」と暴言を沿びせ、同係長の職務を妨害した。

原告松本の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告松本に対し減給給与日額二分の一の懲戒処分をした。

(一一) 原告牧野茂夫について

原告牧野は、一一月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属していたものであるが、一一月一三日、始業時刻の午前八時ごろ、同清掃事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務につくよう命じたにもかかわらず、原告今浪光雄、同早川進、同下原浜雄とともに、これを無視して約三〇分間にわたり自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めてその職務を放棄させ、勤務時間にくいこむ職場集会を主宰指導した。

原告牧野の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五第に違反し、同法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当するので、被告は、原告牧野に対し戒告の懲戒処分をした。

(一二) その余の原告らについて

その余の原告らの一一月及び一二月当時の所属及び職名(職種名)は、別表(二)ないし(五)の「所属」欄及び「職名(職種名)」欄記載のとおりであるところ(なお、原告石井常夫は当時市労本部執行委員の組合役職にあつた。)、次の違法行為をした。

(1) 別表(二)及び(四)記載の原告らは、いずれも一一月一三日に行なわれた争議行為に参加して自己の職務を放棄した。

(2) 別表(二)ないし(五)記載の原告らは、いずれも一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、別表(二)及び(三)記載の原告らにおいては同三日間、別表(四)及び(五)記載の原告らにおいては同表「欠勤日」欄記載の日に、それぞれ休日出勤命令に従わず無断欠勤した。

以上の原告らの行為は、いずれも地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当するので、被告は、別表(二)及び(三)記載の原告らに対し給与日額二分の一の減給、別表(四)及び(五)記載の原告らに対し戒告の各懲戒処分をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

同1の事実はすべて認める。

2  同2について

(一) 同2(一)の事実中、北九州市当局が一一月二六日市労との団体交渉の席上年末休日出勤に関する労働条件につき被告主張のような提案をしたこと、一二月一九日地労委から「双方誠意をもつて交渉し、円満解決を図るよう。」との趣旨の勧告が出されたこと、その後団体交渉が行なわれたが意見の一致をみなかつたこと、同月二五日被告主張のような勤務命令書が発せられたこと、市労が同月二七日に同月二九日から三一日までの休日勤務の拒否を組合員に指令し、同月二九日から出勤拒否が行なわれたこと、以上の事実は認めるが、その余は争う。

(二) 同2(二)の事実中、市労が一二月二七日に同月二九日から三一日までの休日出勤の拒否を指令したこと、その間組合役員により出勤してきた自動車運転手、清掃作業員らに対し不就労の呼びかけがなされたこと、その間の清掃作業員らの出勤状況が被告主張のとおりであること、市当局が管理職員を動員し、民間業者に委託することによりごみについては市民の非難を受けない程度の処理ができたことは認めるが、その余は争う。

(三) 同2(三)(1)の事実中、一二月二九日から三一日までの清掃作業員らの出勤状況が被告主張のとおりであること、その間原告松本征幸、同中野公雄、同島内一雄らが組合員に対し就労しないよう呼びかけ説得したこと、同2(三)(2)の事実中、一二月二七日市労により年末出勤拒否の指令書が作業員控室に貼り出されたこと、一二月二九日から三一日までの清掃作業員、自動車運転手らの出勤状況が被告主張のとおりであること、その間原告今浪光雄、同下原浜雄、同竹村信芳、同岩本節男らが組合員に対し就労しないよう説得したこと、一二月三一日一九台の清掃車のタイヤが刃物で切られ空気が抜かれる事件が発生したこと(もつとも、この事件は原告らはもちろん市労としても全く関係ない。)、同2(三)(3)ないし(5)の事実中、一二月二九日から三一日までの清掃作業員、自動車運転手らの出勤状況が被告主張のとおりであること、以上の事実は認めるが、その余は争う。

3  同3について

同3の事実中、一一月及び一二月当時の原告らの所属、職名(職種名)及び組合役職がいずれも被告主張のとおりであることは認めるが、原告らに対する処分の根拠法条はいずれも争う。

原告らの各行為に対する認否は、次のとおりである。

(一) 同3(一)の原告早川の行為中、(1)、(3)の各行為は認めるが、(2)は争う。

(二) 同3(二)の原告下原の行為中、(1)、(2)の各行為は認めるが、(3)は争う。

(三) 同3(三)の原告今浪の行為中、(1)、(4)の各行為は認めるが、(2)は争う。

(四) 同3(四)の原告下原の行為中、(1)、(4)の各行為は認めるが、(2)、(3)は争う。

(五) 同3(五)の原告竹村の行為中、(1)、(3)の各行為は認めるが、(2)は争う。

(六) 同3(六)の原告岩本及び同吉川の行為中、(1)、(4)の各行為は認めるが、(2)、(3)は争う。

(七) 同3(七)の原告矢狭の行為中、(1)、(2)、(4)(但し、呼びかけが執拗であつたことを除く。)、(5)の各行為は認めるが、その余は争う。原告矢狭は、一二月二九日当日作業員詰所にはいなかつた。

(八) 同3(八)の原告島内の行為中、(1)、(2)、(4)(但し、呼びかけが執拗であつたこと、就労を妨害したことを除く。)の各行為は認めるが、その余は争う。

(九) 同3(九)の原告中野の行為中、(1)、(2)(但し、所長らの業務を妨害したことを除く。)の各行為は認めるが、(2)のうち、原告中野が所長らの業務を妨害したとの主張は争う。

(一〇) 同3(一〇)の原告松本の行為中、(1)、(2)(但し、所長らの職務の執行を妨害したことを除く。)、(3)のうち被告主張の日時場所において清掃作業員らに対し不就労の呼びかけをしたことは認めるが、その余は争う。

(一一) 同3(一一)の原告牧野の行為中、約一〇〇名の職員の職務を放棄させたことは争うが、その余の事実は認める。

(一二) 同3(一二)のその余の原告らの行為はすべて認める。

五  原告の法律上の主張及び再抗弁

1  本件年末休日出勤拒否は正当な権利行使としてなされたものである。

(一) 被告が原告らに対し年末休日出勤を命じた根拠は、北九州市労務職員就業規則一四条二項であるところ、原告ら単純労務職員の労働関係は、地公労法が準用され、原則として労働組合法、労働基準法(以下「労基法」という。)の適用をみること私企業労働者と同様であるから、これを公法上の特殊な契約関係とみるべきでなく、私企業労働者と同様の労働契約関係とみるべきである。

そして、職務命令は、労働契約に照応するものと考えられ、労働契約の内容とされる範囲内でのみその効力が及ぶと考えるべきである。

(二) そこで、本件における年末休日出勤命令の適法性、有効性、換言すれば、右命令を受けた者の休日労働義務の有無につき考える。

まず、いわゆる週休制による休日(労基法三五条)に使用者が労働者に労働を命じるについては、いわゆる三六協定の締結が必要とされている(同法三六条)。しかし、三六協定が存在するからといつて、使用者は直ちに労働者に対し休日労働を命じうるわけではなく、三六協定の民事的効力は、使用者が協定の枠内において労働者に対し休日労働契約締結の申込みをなしうるという点に限られると解すべきである。すなわち、右協定下において使用者が休日労働を命じたとしても、これは拘束力ある職務命令ということはできず、単なる休日労働の申込みにすぎない。労働者はこれに対して合意するか否かの自由を有するのである。このことは就業規則、労働契約に休日労働の定めがあつたとしても異ならず、その定めは休日労働がありうることの確認的ないし予告規定にすぎないというべきである。

そして、本件における年末休日は、右の週休制による休日以外の休日(いわゆる法定外休日)であるが、この場合にも憲法一八条、労基法五条の趣旨に照らし右の考えを徹底させ、使用者が労働者に休日労働を命じようとする場合には、労働者の個別的な同意を要すると解すべきである。

従つて、北九州市労務職員就業規則一四条二項は、休日労働がありうることの確認的、予告的機能しかもたず、具体的な休日労働義務の発生は個別労働者の意思にかかつているというべきであるが、本件において原告らは年末休日勤務を同意したことはないから、原告らに右休日労働義務は生じていない。

仮に、右休日労働義務を認めるとしても、本件の場合三六協定が締結されていないから(最低限法定外休日労働の場合であつても三六協定の締結は必要と解すべきである。)、この点からも本件の年末休日出勤命令は効力を生じていない。

(三) 以上のとおり、本件年末出勤拒否は、市労の指令に基づいて集団的になされたものであるが、労働契約上の休日権の行使であり正当な権利行使としてなされたものであるから、争議行為ということはできない。

2  地公労法一一条一項は憲法二八条に違反する。

原告らに対する本件各処分の実質的根拠とされた地公労法一一条一項は、地方公営企業職員等の争議行為を一律全面的に禁止しているが、右条項はすべての勤労者に対し労働基本権を保障した憲法二八条に違反し無効であるから、地公労法一一条一項を適用して懲戒処分をすることは許されない。

3  本件各争議行為は地公労法一一条一項で禁止する争議行為に該当しない。

(一) 仮に、地公労法一一条一項が憲法二八条に違反しないとしても、右法条は少なくとも憲法二八条に適合するよう適切な限定解釈が施されるべきである。そして、憲法二八条の趣旨と調和するよう解釈するとすれば、それは、地方公共団体の業務若しくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類、態様、規模とを相関的に考慮し、その公共性の度合、争議行為の態様等に照らして住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらすおそれのある争議行為に限りこれを禁止したものと解すことになる。

(二) ところで、原告らの従事するごみ、し尿の清掃業務は、市民の保健、衛生とかかわりを持ち、これが停廃し長期に及んだ場合には、なるほど住民の生命、健康、公衆衛生に重大な障害をもたらすおそれがあると一般的にはいえるであろう。しかし、清掃業務の短時間の停廃は、所定の収集計画に若干の支障を与えるとしても、当日ないし後日の努力によつて十分回復可能であり、また、他に民間への委託ないし管理職員等の代替労働によつて短時間の停廃による清掃業務の遅滞は容易に補充できるものである。

とすれば、清掃業務の場合、短時間にわたる業務の停廃であつて、ごみ、し尿の収集計画が若干延長し住民生活へ単なる迷惑を及ぼす程度のものは、地公労法一一条一項で禁止する争議行為には該当しないというべきである。

(三) しかして、本件一一月一三日のストライキは、人事院勧告完全実施を目的として、自治労の方針に基づき市労の指令のもとに統一的に実施されたもので、ストの態様も単なる労務不提供にすぎず、その規模も始業時から二〇分ないし三〇分以内のごく短時間のものであつて、通常でも手持ち時間の職場集会程度で、当日の収集には全くといつていい程実害はなかつた。

従つて、本件一一月一三日のストライキは地公労法一一条一項で禁止された争議行為に該当しない。

(四) 本件年末出勤拒否についてみれば、出勤拒否のあつた三日間のごみ収集については、事前に手配された民間業者及び管理職員により、ほぼ所定通り実施されたが、し尿について、二〇日に一日収集の計画に支障を来たし一部について翌一月二〇日ころまで影響が残つた。

しかし、右程度では末だ市民生活の健康・公衆衛生状態に重大な障害を及ぼしたということはできない。すなわち、一部の地域について計画的収集に支障があつたとはいえ、右計画の遅れは、その後の一時の集中的収集により容易に回復可能であつたからである。

それに加え、そもそも市民に対する計画的収集の第一次的責任は市当局にある。市当局は市民に対し昭和四三年以前は一二月二八日までゴミを整理するよう公告してきたが、昭和四四年は一二月三一日までの収集を公約した。このことは、市労との話し合いにおいて市当局の一層誠実な態度を要求することになる。にもかかわらず、市労との話し合いがつかないまま事前に予告した収集計画通り実施しようとすれば、市当局において円滑に収集業務が実施できるよう周到な準備をすることは当然である。従つて、本件年末出勤拒否の与えた障害を考えるにつき、市当局の措置がなければ重大な障害をもたらしたであろうという考え方を採ることは、本件に関する限り全く論外であり、市当局の措置を含めて市民生活に重大な障害を及ぼしたか否かは実害でもつて考えるべきである。

とすれば、本件年末出勤拒否は、到底地公労法一一条一項で禁止されている争議行為にはあたらない。

4  本件一一月一三日の争議行為に地公労法一一条一項を適用することは憲法二八条に違反する。

仮に、地公労法一一条一項が憲法二八条に違反しないとしても、労働基本権の制限を合憲とする場合には、その代償措置が存在し現実にもこれが有効適切に機能していることが憲法上の要請であるというべきであるから、右代償措置が機能を喪失し又は不完全にしか機能していない場合、この是正を図る目的で公務員労働者が争議行為に訴えたときに、右争議行為に地公労法一一条一項を適用することは、憲法二八条に違反すると解すべきである。

そこで、本件につき右代償措置としての人事院勧告の実施状況についてみるに、人事院は、昭和二三年に設立され、以来国家公務員給与等の改善につき勧告してきたが(昭和二九年から同三四年までの間は基本賃金改訂についての勧告なし)、政府はこれに従わず、昭和三五年になつて実施に踏み切るようになつた。といつてもその実施は、人事院が五月一日に遡つて改善を勧告したにもかかわらずこれを一〇月から適用するとして、いわば不完全なものにとどまつた。そして以後毎年出される人事院の勧告についても、右と同様の方法で完全な実施をせず、その結果、昭和三五年から同四一年までを合計して三二か月分(公務員平均一人当り金一一万二九五一円相当)が勧告どおりに実施されなかつた。また、本件各争議行為以前の昭和四一ないし四三年に限つてみても、人事院はいずれの年度の勧告も五月一日に遡つて実施するよう求めているが、昭和四一年には九月、同四二年には八月、同四三年には七月からと徐々に完全実施の方向に向かつてはいるものの、依然として不完全な実施にとどまつたのである。

もつとも、右人事院の勧告は直接には国家公務員に関するものであるが、地方公務員ひいては地公労法の適用を受ける現業地方公務員及び地方公営企業職員の賃金決定に重大な影響をもたらし、結局、人事院勧告及びその実施状況は原告らの勤務条件(特に給与)の規制に結びついているのである。

このように人事院勧告及びそれを受けた地方公共団体の人事委員会の勧告が不完全にしか実施されないということは、制度的にも政府及び自治体当局を拘束しないという欠陥に由来する。

以上のとおり毎年人事院勧告の実施時期が遵守されず、また、勧告そのものが比較的低い数値におさえられていることは、勧告の影響下にある公務員労働者の賃金に決定的な不利益を与えており、明らかに代償措置がその機能を喪失していることを意味する。従つて、これを是正する目的でなした本件一一月一三日の争議行為に地公労法一一条一項を適用することは、憲法二八条に違反するというべきである。

5  本件各処分は懲戒権の濫用である。

(一) 懲戒処分は、その対象となつた行為の動機・目的・当該行為に至る経過とその規模、集団行為の場合には、参画の度合、他の参加者に対する処分との均衡など諸般の事情を総合的に勘案して、必要な限度を超えない「公正」かつ「相当」な合理的範囲内にとどめなければならず、それを超えた不利益な処分は妥当性・合理性を欠き、処分権者に与えられた合理的な裁量権を逸脱したものとして権利の濫用となり違法なものと解すべきである。

(二) 原告ら所属の市労は、昭和四二年三月一日市長に就任した谷伍平による労働者や市民に背を向けた種々の「合理化」に対し市民とともに反対行動を繰り広げたのであつた。このような組合の活動は、当然市当局の嫌悪するところであり、そのため全国の地方公共団体でも例を見ない大量かつ苛酷な処分が毎年繰り返されたのである。谷市政において、処分が政治的敵対者である原告ら所属の市労弾圧の武器として用いられていることは明らかである。

(三) 原告らの一一月一三日スト参加についてみれば、これは公務員共闘会議統一闘争の一環として自治労中央本部の指令に基づいた単純不作為の同盟罷業であるにもかかわらず、全国に類をみない大量・苛酷な処分がなされており、加えて人勧完全実施要求の意義を考慮すれば、処分権の濫用ということができる。また年末出勤拒否については、既に述べたとおり、そもそも出勤業務が存在しない場合である。このように出勤業務が存在しないにかかわらず、出勤を命じこれに従わない労働者に対し、懲戒をなすことは許されない。

ましてや本件の場合には、参加者全員に対し昇給延伸三か月の不利益を退職時まで負わされる戒告を最下限とする懲戒処分を課すものであり、その不当性はきわめて明白である。

(四) 仮に、百歩譲つて出勤義務が存在するとの立場にたつとしても、<1>原告らにおいては、当初から年末出勤については協力するとの基本的立場にたつたうえで、労働条件について団体交渉を積み重ねようとし、最終段階では大幅な譲歩も敢えて行なつたこと、<2>被告は当初より一方的な労働条件を掲示しただけで、組合側の提案に対して誠実に対応する姿勢が全く欠けていたこと、<3>翌年からは本件当時原告らが主張していた要求について被告がこれを受け容れていることからも明らかなように、労働組合の要求が基本的には正当なものであること、<4>原告らの行為の態様がいわゆる単純不作為であること、<5>代替要員及び業者の導入により年末作業がそれなりに実施されていること、その他の諸般の事情に照してみた場合、その参加者全員を対象とした本件処分は「公正」と「相当性」を欠き、客観的合理性を逸脱したものといわなければならない。

(五) ところで、被告は、特に年末出勤に関し、

(1) 一二月二九日門司清掃事務所での原告松本征幸、同矢狭清光、同島田一雄らの不就労の説得

(2) 一二月三〇日同事務所での原告中野公雄、同松本征幸、同島内一雄、同矢狭清光らによる不就労の説得

(3) 一二月二九日小倉西清掃事務所での、原告早川進、同下原浜雄、同今浪光雄らの清掃車の出庫妨害

(4) 一二月三〇日同事務所での原告岩本節男、同今浪光雄、同下原浜雄、同吉川清政らの大津所長に対する抗議

(5) 一二月三一日同事務所でのゴミ車一九台のタイヤ損傷行為、等を個別的非違行為と挙示する。

しかし、(1)、(2)の行為は、いずれも市労組合員の組織規律違反に対する団結活動の一環であり、その説得の態様も平穏かつ相当であり、(3)の行為は、私物が在中している車両に、安易に民間下請業者を乗務させたことに対する抗議であり、(4)の行為は、当局が年末出勤拒否に至る事実経過を歪曲し、一方的に自己の立場を有利にする対市民向けビラを清掃作業のかたわら配布したことに対する抗議であつて、もとより動機としても正当なものである。(5)の行為は、原告らと全く関係のない行為であり、悪意の憶測である。

(六) 以上のとおり、結局本件各処分は懲戒権の濫用というべきである。

六  右五の主張に対する被告の答弁

1  五1の主張は争う。

原告らは、北九州市労務職員就業規則に基づく休日勤務命令を受けたことにより、一二月二九日、三〇日及び三一日は出勤して勤務する義務を負つていたものである。しかも本件について、市当局は、一二月二五日に清掃関係職員に休日勤務命令書を交付するにあたつて、右勤務命令書に記載した期間に、年末年始の帰省その他の都合により出勤できない場合は、同月二五日、二六日の二日間に、その旨事情を具して申し出ることを求め、その申し出があつた場合は、これを容れて命令を取り消し、休日を享受できるよう処理する旨を、管理者より清掃関係職員に周知徹底させる措置をとつた。

以上から市当局は、出勤できない場合の申し出の機会を十分に与え、各職員の都合により休日を享受できるよう取りはからつているのであるから、当局の与えた機会に出勤できない旨の申し出をしなかつた原告らは、年末休日勤務に従事できる状況にあるものとして取り扱われてもやむを得ないというべきである。

従つて、原告らが、自己の都合による事情を具して、市当局に対し、休日勤務をすることができないことを明示して申し立てていない以上、右就業規則に基づく休日勤務命令に従わず勤務しなかつたことは明らかに違法であり、しかも、組合の闘争指令に基づいて、集団的に就労を拒否したのであるから原告らの行為は明らかに争議行為であり、原告らが個々に休日に関する権利を行使したというべき性質のものでないことは明白である。

2  五2、3の主張は争う。

地公労法一一条一項による争議行為の一律全面的な禁止が憲法二八条に違反しないことは、非現業国家公務員の争議行為を禁止した国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項が合憲であることを判示した最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(刑集二七巻四号五四七頁)、非現業地方公務員の争議行為を禁止した地公法三七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五一年五月二日大法廷判決(刑集三〇巻五号一一七八頁)、現業国家公務員の争議行為を禁止した公共企業体等労働関係法一七条一項が合憲であることを判示した同裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁)などに照らして明らかである。

3  五4の主張は争う。

地公労法一一条一項により争議行為を禁止するについては、勤務条件の法定、身分の保障等適切な代償措置が講じられている。

4  五5の主張は争う。

地公法二九条は、職員の義務違反ないし非違行為に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができると規定し、職員が懲戒事由に該当する場合これに対し懲戒処分を行なうかどうか、また、処分を行う場合にいずれの処分を行なうかは、地公法六条により懲戒権を行使する任命権者が具体的な事情に応じて裁量により決定すべきものとしており、任命権者は所属職員に対する懲戒権の行使について、広い裁量権が与えられている。従つて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合いかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられ、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきである。

原告らに対する各懲戒処分は、以上の見地に立つて、原告らの違法行為の事実に基づき、各原告の責任に応じ、任命権者である被告がその裁量権を行使して行つたもので全く適法なものである。

第三証拠関係<省略>

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  一一月一三日の争議行為の経緯及びその状況について判断する。

1  争議行為に至る経緯

抗弁1(一)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、証人山本興一の証言により真正に成立したものと認める甲第二、第三号証、証人野田哲の証言により真正に成立したものと認める甲第二四号証、いずれもその成立に争いのない甲第二一、第二二号証、乙第三号証、第七号証及び証人山本興一、同中野公雄の各証言を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  自治労のいわゆる第一〇次賃金闘争方針をめぐる議論は、既に二月二六日、二七日の第一八回臨時大会においてその整理が試みられ、地方公務員共闘会議も三月一〇日の幹事会において第一〇次賃金闘争方針を決定し、以後それぞれ人事院及び政府との交渉を行なうなどの要求活動を展開してきた。

人事院は、八月一五日国家公務員の給与につき俸給で八・七パーセント、諸手当で一・〇パーセント、その他で〇・五パーセント、計一〇・二パーセント、平均五六六〇円の賃上げ(五月一日実施)等を内容とする勧告を行なつた。これは、公務員共闘の一万円賃上げ要求には程遠いものであつたが、昭和三五年の一二・四パーセント以来の二桁勧告であつた。

自治労は、八月二六日から二九日までの四日間松江市において第一九回定期大会を開催し、人事院勧告後の重点目標を<1>人事院勧告の実施時期を五月とすること、<2>地方財源の確保と公営企業、再建団体における賃金改訂の実施、<3>最低保障四〇〇〇円の確保、<4>期末手当の〇・二か月増額、とし、安保条約廃棄、沖繩返還闘争と結合させて一一月中旬に一時間以上のストライキを実施することを決定した。また、公務員共闘会議は、九月五日の幹事会において、公務員賃金の確立を中心課題とする秋季年末闘争方針を決定し、既に一一月中旬に予定していた統一ストライキを総評の決定に合わせて一一月一三日に実施することとし、その後九月六日、一六日に右幹事会の決定に基づいて、<1>人事院勧告の実施時期を完全に実施すること、<2>地方公務員、地方公営企業体職員の賃金引上げに必要な財源を地方自治体に保障すること、<3>最低引上げ四〇〇〇円を保障すること、<4>期末手当の支給〇・一か月を〇・二か月に増額すること、以上四項目の実施を要求して総理府交渉をもち、また、一〇月六日、七日には、一〇月にも人事院勧告に対する政府の方針が検討されると予測し、中央動員を実施して全国統一行動を展開するなどの行動を行なつた。

自治労は、定期大会後統一ストライキに向けて準備してきたが、一〇月三日第一回拡大闘争委員会で具体的なスト体制について確認し、一〇月二一日、二二日第四五回中央委員会において一一月一三日ストライキの全国批准投票の結果を確認したうえその決行を決定した。次いで公務員共闘会議は、総評とともに一〇月二三日、前記四項目の要求実現と安保条約廃棄、沖繩即時返還等をめざして一一月一三日の全国統一行動日に一時間以上にわたるストライキを行う旨の共同宣言を発表した。

(二)  北九州市においては、昭和四四年当時原告らの所属する市労、市職、市職労等の労働組合又は職員団体が存在し、市労及び市職はその連絡調整機関として市労連を組織していた。

当時、組合員間には、市行財政合理化に伴う現業関係職員の労働条件の悪化に対する危惧があつて、その賃金決定に大きな影響をもつ人事院勧告の完全実施に対する要求が強かつたが、そのような状況の下において、市労は、九月二五日の定期大会で、前記自治労の定期大会での決定に基づき、全国統一行動日にはストライキで臨むことを決めた。また、市職及び市職労もそれぞれ闘争委員会を催して、全国統一行動の具体的方針を協議した。

そして、一〇月二五日、市労連及び市職労は、全国統一行動を含む秋季年末闘争を共闘して推進することを確認したうえ、共闘組織として市役所共闘会議を設置し、職員の統一行動に対する積極的な取り組みを訴えた共同声明を発表した。その後、各区においては、市役所共闘会議の下部機構として区役所共闘会議が逐次組織され、各職場においては、市役所共闘会議の運営及び統一行動に関する教宣活動が市労などの組合役員によつて頻繁に行なわれた。

(三)  このような状況から、市当局は、一一月一一日に同月一三日は争議行為が行なわれることが予想されたので、市労、市職及び市職労に対し、違法な争議行為を行なわないよう警告書を手交し、また、同月一二日、全職員に対して、違法な争議行為に参加しないよう自重を求める旨の警告書を交付するとともに、同様の警告文を本庁及び区役所等に掲示し、更に、同月一三日は定刻に出勤し職務に従事するよう命じた職務命令書を交付した。

しかしながら、同月一二日組合側は、被告に対し、市役所共闘会議議長片岸真三郎名をもつて「総評、公務員共闘の指令により、一一月一三日始業時から一時間三〇分の時間内集会を実施する。」旨を文書で通告した。もつとも、その後市職労は、組合員が賃金カツトをうけずにより多数の組合員が参加できること等を配慮し、二九分以内の集会に変更することを決定したので、市労連は、これを考慮して、各組織の実情に応じできる限り全国統一行動の線にそつて勤務時間内集会を実施することにした。

以上の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

2  争議行為の概況

抗弁1(二)の事実は当事者間に争いがない。

三  次に、一二月二九日、三〇日及び三一日の争議行為の経緯及びその状況等について判断する。

1  争議行為に至る経緯等

当事者間に争いのない事実に、前掲甲第二二号証、原告石井常夫本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認める甲第八号証、その成立に争いのない乙第二二号証、これにより真正に成立したものと認める乙第一五号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一二号証、いずれもその成立に争いのない甲第九、第一〇号証、第一二号証、乙第二号証、第九、第一〇号証、第一六号証、第二一号証の一、証人佐伯正之の証言、原告石井常夫本人尋問の結果(第一、第二回)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  原告らは、いずれも地公法五七条に規定される単純な労務に雇用される者であるが、北九州市に勤務する単純労務職員の就業に関する事項は北九州市労務職員就業規則(昭和三九年五月二五日規則第九六号)に定められている。そして、同規則は、その一三条一項に「日曜日は勤務を要しない日とする。」と定めるとともに、一四条で「1労務職員の休日は、国民の祝日に関する法律(昭和二三年法律第一七八号)に規定する日ならびに一月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日および同月三一日とする。2市長は、業務のつごうにより特に必要な場合は、労務職員に対し、休日に勤務することを命ずることができる。3休日と勤務を要しない日とが重複するときは、その日は勤務を要しない日とする。」と規定している。

このように、清掃関係職員についても年末は原則として休日とされていたが、年末には各家庭その他の施設で大掃除を行なつたうえで正月を迎えるという風習があるため平常時に比べ多量のごみが排出され、地方自治体としても美しい環境で新年を迎えたいという市民の要求に応じるために年末に清掃作業を実施する必要性があつたので、北九州市においては、昭和三八年の市発足以来(なお、それ以前の旧五市時代には各市において)、一貫して年末清掃作業を実施してきた。そして、例年、清掃関係職員に年末清掃作業を命ずるにあたつて、市当局は、出勤日及び作業時間、休日勤務手当加算額等につき、事前に組合側と団体交渉によつて合意し、円滑に清掃業務が行なわれてきた。

なお、休日に勤務を命ぜられて勤務した職員に対しては、給料に加えて特別手当として所定の給与額の一〇〇分の一二五にあたる休日勤務手当が支給されるが(北九州市職員の給与に関する条例四条一項、一九条一項、二項、同条例付則((昭和四一年五月一八日条例二六号))二二項)、特に一月一日、同月二日、同月三日、一二月二九日、同月三〇日又は同月三一日に勤務を命ぜられた職員に対しては、更に一日につき五〇〇円の範囲内で市長が定める額が休日勤務手当に加算して支給されることになつていた(同条例付則二〇項)。

(二)  北九州市当局は、一一月二六日市労と第一回目の団体交渉をもち、昭和四四年の年末休日勤務に関する労働条件について次のとおり提案した。すなわち、一二月二九日、三〇日の就業時間は、午前八時から午後四時まで、同月三一日は、午前七時から午後三時まで、但し特に指定する一部の者は夜間勤務として午後八時から午後一二時までとする休日勤務手当については、実働時間に相当する休日勤務手当(給与額の一〇〇分の一二五)を支給し、更に、手当の加算額として勤務一日について五〇〇円、三一日の夜間勤務については二五〇円をそれぞれ支給する(以上の事実は当事者間に争いがない。)。

これに対し、市労は、右提案を不満とし、一二月四日市当局との第二回団体交渉の際、次の要求をした。すなわち、休日勤務手当にプラスアルフアせよ、一日五〇〇円の加算金を他の政令市の状況と比較して再検討せよ、勤務時間内であつても作業が終了すれば退庁すること(いわゆるやり切り制)を認めよ、などというものであつた。その後同月八日、一三日に第三回、第四回の団体交渉がもたれ、その間同月一二日には、市当局側の松浦助役と市労の佐伯正之委員長との間でトツプ交渉が行なわれたが、合意をみるに至らなかつた。

右の市当局の提案と組合側の要求は、主として年末休日出勤に対する手当額に関するものであつたが、市当局としては、休日勤務手当の割増しは、結局実働時間を超える時間分についても手当を支給することであつて不合理である、手当の加算額は、北九州市職員の給与に関する条例に規定された最高額を支給するもので、他の政令指定都市と比較しても不当な額ではない、として当初の提案を一貫して主張し譲らなかつた。これに対し、市労は、加算金五〇〇円は五年間据え置かれたままであるうえ、休日勤務手当も、大阪市(昭和四三年において実働の超過勤務時間に対する手当額に五時間超過勤務相当分の割増し)、横浜市(同様に九時間超過勤務相当分の割増し)等の各市と比較して低劣であるとして、市当局にその提案の再考を求めたが、結局両者の主張は平行線をたどり一二月一三日交渉は打ち切られた。

その後一二月一八日、市労は、地労委に対しあつせんの申請をなし、地労委は、同月一九日労使双方に対し「今次、年末の出勤拒否の件については、労使双方は、歳末を控えて清掃業務が渋滞をきたさないよう、とくにその重要性を考慮し、誠意をもつて交渉のうえ円満解決を図られるよう切望する。」との勧告を行なつた。右勧告に従い、同月二三日第五回の団体交渉が行なわれたが意見の一致をみなかつた(一二月一九日地労委が右趣旨の勧告をしたこと、その後団体交渉が行なわれたが意見の一致をみなかつたことは当事者間に争いがない。)。更に、同月二八日地労委から、「清掃関係職員の年末休日出勤の労働条件にかかわる紛議については、他の政令都市の実情を勘案して、労使の間で協議決定し、歳末の清掃業務が正常な姿で行なわれるよう双方格段の努力をされたい。」との勧告が出され、同月二九日に第六回目の団体交渉が行なわれたが、結局労使間で年末休日出勤に関する労働条件について意見の一致をみなかつた。

(三)  このように団体交渉が順調に進まず、既に一二月始めころ組合間に年末出勤拒否の気配がみえ、同月一八日ころにはこれがほぼ確定的となつたので、市当局は、年末清掃業務に支障を生じた場合の市民生活に与える影響の重大性を考慮して、民間委託業者の導入、土木業者等からのトラツクの借受け、管理職〔清掃事業局のみならず他部局からも)の動員などの対策を立て、市民に対して、団体交渉の経過等を書いたビラを配付した。更に、職員との関係では、一二月二五日清掃関係の各職員に対し、市長名で同月二九日、三〇日及び三一日の休日についての「休日及び時間外勤務命令書」を交付するとともに(右のような勤務命令書が発せられたことは当事者間に争いがない。)、特別の事由で出勤できない者については、同月二五日、二六日に申し出るよう疎明の機会を与えた。そして、同月二八日組合に対し出勤拒否をしないよう申し入れた。

他方、市労は、自治労本部及び同県本部に実情を報告し年末作業拒否の闘争指令を仰いだうえで、一二月二七日、清掃関係組合員に対し、同月二九日から三一日までの間休日勤務をしないよう指令を発した(市労が一二月二七日右指令を発したことは当事者間に争いがない。)。なお、市職労は、既に同月一七日、その組合員に対し、休日出勤拒否の指令を発していた。

以上の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

2  年末出勤拒否の状況及びその影響

抗弁(2)(二)の事実中、市労が一二月二七日に同月二九日から三一日までの休日出勤の拒否を指令したこと、そのの間組合役員により出勤してきた自動車運転手、清掃作業員らに対し不就労の呼びかけがなされたこと、その間の清掃作業員らの出勤状況が被告主張のとおりであること、市当局が管理職員を動員し、民間業者に委託することによりごみについては市民の非難を受けない程度の処理ができたことは当事者間に争いがないところ、右争いのない事実に、前掲乙第二一号証の一、いずれもその成立に争いのない乙第一四号証、第二一号証の二を総合すれば、次の事実が認められる。

一二月二九日から三一日までの三日間は、既に組合の出勤拒否の指令が出され、また、その間出勤してきた自動車運転手、清掃作業員らに対しても組合役員らによる不就労の呼びかけがなされるなどしたため、清掃作業員ら総数一四四五名のうち出勤した者は、一二月二九日三四〇名、同月三〇日四一五名、同月三一日四二八名にすぎなかつた。

そこで、市当局は、このまま放置すれば年末清掃業務はまひし市民生活に重大な影響を及ぼすことが予想されたので、同三日間に清掃事業局以外の部局から管理職員を延四二八名、臨時雇用の作業員を延一七六名投入するとともに、民間業者にも委託しその作業員延一〇六〇名を投入し、主としてごみの収集、処理にあたつた結果、ごみについてはどうにか市民の非難を受けない程度の処理ができたが、し尿については当時二〇日に一回の周期で収集する計画で作業にあたつており、例年、年末にはできる限り収集し残余の滞貨は越年後一月一〇日から一五日ころまでに収集できていたところ、昭和四四年の年末はその収集作業がはかどらず、市民からの苦情の電話もあり、その後正常な状態に戻つたのは翌年二月からであつた。

以上の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

3  各清掃事務所の状況

本件原告ら関係の各清掃事務所における状況は、次のとおりである。

(一)  門司清掃事務所

抗弁2(三)(1)の事実中、一二月二九日から三一日までの清掃作業員らの出勤状況が被告主張のとおりであること及びその間原告松本征幸、同中野公雄、同島内一雄らが組合員に対し就労しないよう呼びかけ説得したこと、同3(七)の原告矢狭清光の行為中(2)、(4)(但し、呼びかけが執拗であつたことを除く。)の各行為、同3(八)の原告島内一雄の行為中(1)、(2)、(4)(但し、呼びかけが執拗であつたこと、就労を妨害したことを除く。)の各行為、同3(九)の原告中野公雄の行為中(2)(但し、所長らの業務の執行を妨害したことを除く。)の行為、同3(一〇)の原告松本征幸の行為中(2)(但し、所長の職務の執行を妨害したことを除く。)の行為及び(3)の行為のうち一二月三〇日午前八時ころ門司清掃事務所二階作業員詰所において清掃作業員らに対し不就労の呼びかけをしたこと、以上の事実は当事者間に争いがないところ、右争いのない事実に、弁論の全趣旨によりその成立を認める乙第一八号証、その成立に争いのない乙第一七号証の一、証人村上光良、同佐藤敦の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 一二月二七日午前八時一〇分ころ、門司清掃事務所大里作業所二階作業員控室において、原告矢狭清光及び同島内一雄は、佐伯正之市労委員長とともに、在室の同事務所職員約三〇名に対し年末清掃作業を拒否するように呼びかけた。

更に、同日午後三時三〇分ころ、原告島内一雄は、門司清掃工場でのオルグを終えて同清掃事務所大里作業所二階作業員控室におもむき、在室の同清掃事務所清掃作業員ら約五〇名に対し年末清掃作業を拒否するよう呼びかけた。

(2) 同月二九日、同清掃事務所においては、自動車運転手及び清掃作業員ら二一〇名中九名しか出勤せず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否指令に従つて出勤しなかつた。

同日午前八時四五分ころ、同事務所所長村上光良は、同事務所に応援に来ていた森崎禎治(門司区総務課職員係長)と佐藤敦(建設局門司建設事務所失業対策課長)を同道して、当日一応事務所に出向いてきた作業員を作業配置につかせるため、同事務所二階作業員控室におもむき、同所でストーブを囲んでいた一〇数名の作業員(市労組合員)に対し、一〇分以内に着替えて作業に就くよう命令したところ、原告矢狭清光及び同松本征幸は、村上所長に対し「今日は仕事はせんのだ。」「仕事をせんといつたらどうするか。」などと言つてこれを妨害し、再度同所長が就労を命じたにもかかわらず、作業員らに対し「今日は仕事をせんで帰ろう。何かあつたら家に行くから。」と就労拒否の呼びかけを行なつた。そのため作業員らは作業に就かず三々五々帰宅していつた。

更に、その後村上所長は、同事務所一階作業員控室へ行つて、同所にいた四、五名の作業員に対し、同様に一〇分以内に着替えて作業に就くよう命じたところ、原告島内一雄が、「いらんことを言うな。などと言つてこれを妨害したため、作業員らは作業に就かずに出ていつた。

(3) 同月三〇日の出勤者も、三九名にすぎず、大部分の清掃作業員らが出勤しなかつた。

同日は、午前七時一五分ころから同事務所作業員らが来て二階作業員控室に待機していたところ、午前七時五六分ころ、原告中野公雄は、同控室二階出入口付近において、そこにいた五、六名の職員に対し「外に出てくれ。」「外に集合しようや。」なびと呼びかけ、更に、午前八時ころ、控室内に入つて、同所に集まつていた作業準備中の作業員ら約三〇名に対し、「統一を乱さないよう出勤拒否の指令に従つてくれ。」と言つてオルグ活動をした。そして、そのころ村上所長が、同事務所業務第一係長木原進とともに同控室におもむいて、作業員らに対し、作業配置に就くよう命じ、これに従つて職員が控室から出て行こうとしたのに対し、原告松本征幸は、大声で「ただいま中野さんが言つたことを分かつた方は帰つて下さい。」と言つて就労拒否の呼びかけをした。

その後午前八時一〇分ころ、木原係長が事務所二階作業員控室において、作業班の編成とその氏名を読み上げていたところ、原告島内一雄がやつて来て、午前八時一五分ころ、同控室出入口において、木原係長の右指示に従つて就労のため階段をおりかけた職員二名に対し、原告矢狭清光とともに口口に「なぜ組合に協力しないのか。」などと執拗に呼びかけ、その就労を妨害した。

また、午前八時四〇分ころ、当日の作業班の編成上運転手が一名足らなかつたので、木原係長が、右控室におもむいて、同所にいた自動車運転手に対し仕事に就くよう命じたところ、同所にいた原告松本征幸は、木原に対し「木原、覚えとけよ。家に行くから。」と言つてこれを妨害した。そのため右運転手は就労しないで帰つた。

更に、午後零時四〇分ころ、原告中野公雄は、三村清正ら市労役員とともに、同事務所二階会議室において、当日出勤した作業員らに対し「組合の指令を守れんのか。」「なんで仕事をするのか。」などと出勤拒否の説得を行なつた。

なお、当日事務所二階作業員控室に集まつた前記約三〇名の作業員らのうち、約一五名が実際に出勤して就労し、その余の者は、組合幹部の指示に従つて就労しなかつた。

(4) 同月三一日は、同事務所の市労役員らによる職員に対する就労拒否の呼びかけ等の妨害はなかつたが、小倉西清掃事務所の市労役員三村清正が来て、午前七時すぎころから応援管理職に抗議を行なつた。当日の出勤者は四一名であつた。

以上の事実が認められ、証人矢狭清光の証言中これに反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  小倉西清掃事務所

抗弁2(三)(2)の事実中、一二月二七日市労委員長佐伯正之名による年末出勤拒否の指令書が小倉西清掃事務所作業員控室に貼り出されたこと、一二月二九日から三一日までの清掃作業員、自動車運転手らの出勤状況が被告主張のとおりであること及びその間原告今浪光雄、同下原浜雄、同竹村信芳、同岩本節男らが組合員に対し就労しないよう説得したこと、一二月三一日一九台の清掃車のタイヤが刃物で切られ、空気が抜かれる事件が発生したこと、以上の事実は当事者間に争いがないところ、右争いのない事実に、証人大津正、同田中信男の各証言を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 一二月二九日小倉西清掃事務所の出勤者は、清掃作業員ら一五四名のうち二六名にすぎず、市役所各部の管理職、民間の委託業者の応援をえて当日の作業がなされた。

同日午前八時四五分ころ、応援管理職及び民間委託業者による作業配置が終つて、清掃作業車が構内を出ようとした際、原告早川進、同下原広志、同下原浜雄、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男ら約一〇名が先頭車の前に立ちふさがつたり、作業車にもたれかかるなどしてその出発を妨害した。これに対し、同事務所副所長田中信男が、妨害しないよう命令するとともに説得し、また、同事務所所長大津正が、マイク放送で妨害しないよう命令したが、その効なく、更に、その後、民間の業者が公用車である作業車に乗ることに対する抗議と同事務所職員の私物が作業車中にあつてこれが紛失した場合の処置を質す趣旨から、原告今浪光雄は、後続の清掃車の運転席に財布を置き、フロントガラスにセロエープで千円札を貼りつけ「この車には私物がのつているぞ。」と言つて清掃車の出発を妨害した。そこで、田中副所長らと原告早川進とが話し合つて、作業車を一台毎に点検し、車中の私物を降ろしたうえで出発することとし、午前九時半ころからようやく先頭車が出発できるようになつた。

なお、当日、応援管理職らが作業に不慣れなうえに、右出構妨害もあつて、作業の終了は午後一〇時ころであつた。

(2) 同月三〇日の出勤者は、わずか二五名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従つて出勤しなかつた。

同日午前八時五分ころ、原告今浪光雄、同下原浜雄、同岩本節男、同吉川清政の四名が同清掃事務所二階事務室の大津所長の許に来て、事務所側が、前日のような作業車の出構妨害を避けるために、当日は作業員らを直接各作業現場に集合させて作業を企画したことに対し、「なぜ作業員を就労させたか。」「どこに出勤させたのか。」「指導員になぜ命令したのか。」などと激しい口調で抗議した。更に、午前九時ころ、三村清正を含む市労及び市職労の役員が同事務室の田中副所長の許へ来て、右四名らとともに、事務所が清掃局の指示で配付しようとしていた年末清掃に関する市民向けのビラにつき、その内容が間違つているから配付するのを止めるよう要求して、同副所長らに抗議をした。そして、午前九時二〇分ころには大部分の者は事務所を出て行つたが、原告今浪光雄、三村清正の両名は残つて抗議を続け、午前九時三〇分ころ原告今浪光雄が「もし明日作業員が車に乗つたら引きずり降ろしてでも作業を阻止するぞ。」と言つて事務所を出ていつた。

右抗議のため、所長、副所長は、作業中の応援管理職や清掃局との連絡その他の管理監督の仕事が阻害された。

(3) 同月三一日の出勤者は、わずか二一名にすぎず、大部分の作業員らが組合の出勤拒否指令に従つて出勤しなかつた。

また、同日一九台の清掃車のタイヤが刃物で切られ、空気が抜かれる事件が発生した(もつとも、これが本件年末出勤拒否の紛争と関係あるとの事実は本件全証拠によるも認めることができない。)。

以上の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(三)  八幡東清掃事務所

同事務所に所属する自動車運転手及び清掃作業員ら二二八名中、一二月二九日の出勤者は七九名、同月三〇日は八九名、同月三一日は九三名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従って出勤しなかつたことは当事者間に争いがない。

(四)  八幡西清掃事務所

同事務所に所属する自動車運転手及び清掃作業員ら二六〇名中、一二月二九日の出勤者は七九名、同月三〇日は一一一名、同月三一日は一一七名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従つて出勤しなかつたことは当事者間に争いがない。

(五)  戸畑清掃事務所

同事務所に所属する自動車運転手及び清掃作業員一五三名中、一二月二九日の出勤者は一七名、同月三〇日は一九名、同月三一日は二四名にすぎず、大部分の清掃作業員らが組合の出勤拒否の指令に従つて出勤しなかつたことは当事者間に争いがない。

四  原告らの各行為及びその評価について検討する。

1  原告早川進について

原告早川が、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労小倉支部支部長をしていたこと、<1>一一月一三日午前七時五三分ころ小倉西清掃事務所事務室において、指導員に対し、勤務時間内職場集会に参加するよう呼びかけ、また、始業時刻の午前八時ころから同事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務に就くよう命じたにもかかわらず、原告今浪光雄、同下原浜雄とともにこれを無視して約三〇分にわたり自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めて、その職務を放棄させ、勤務時間にくいこむ職場集会を主宰指導したこと、<2>一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず無断欠勤したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(二)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日午前八時四五分ころ、小倉西清掃事務所構内において、原告下原広志、同下原浜雄、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする清掃作業車の前に立ちふさがるなどし、同事務所副所長らが阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつてその出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害したことが認められる。

原告早川の右<1>ないし<3>の行為は、地公法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

2  原告下原広志について

原告下原が、一一月及び一二月当時技術吏員(二種業務員(防疫員))として市衛生局衛生部防疫所に所属し、自治労福岡県本部執行委員、市労本部特別執行委員をしていたこと、<1>一一月一二日午前一〇時五〇分ころ、建設局庁舎におもむき、建設局下水道部施設課その他において、古本施設課長らが勤務時間中の教宜活動を制止したにもかかわらず、執務中の職員に対して、同行者とともに、一一月一三日の争議行為に参加するよう呼びかけたこと、<2>一一月一三日午前七時三五分ころから同八時二五分ころまで及び同八時三五分ころから同九時一〇分ころまでの二回にわたり戸畑区役所裏広場において、戸畑区所在の各施設の職員約四〇〇名を集めてその職務を放棄させ、勤務時間にくいこむ職場集会を市職労役員とともに主宰指導したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(二)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日午前八時四五分ころ、小倉西清掃事務所構内において、原告早川進、同下原浜雄、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする清掃作業車の前に立ちふさがるなどし、同事務所副所長らが阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつてその出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害したことが認められる。

原告下原の右<1>ないし<3>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号、三号の懲戒事由に該当する。

3  原告今浪光雄について

原告今浪が、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労小倉支部書記長をしていたこと、<1>一一月一三日始業時刻の午前八時ころから、同清掃事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務に就くよう命じたにもかかわらず、原告早川進、同下原浜雄とともに、これを無視して約三〇分間にわたり自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めてその職務を放棄させ、勤務時間にくいこむ職場集会を主宰指導したこと、<2>一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日勤務命令に従わず無断欠勤したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(二)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日、原告早川進、同下原浜雄、同竹村信芳らが、午前八時四五分ころから同清掃事務所構内において、作業に出発しようとする清掃作業車の前に立ちふさがるなどしてその進行を妨害した際、後続の清掃車の運転席に財布を置き、フロントガラスにセロテープで千円札を貼りつけ「この車には私物がのつているぞ。」と言って清掃車の出発を妨害し、同事務所の業務の正常な運営を著しく阻害したことが、更に、前記三3(二)(2)で判示の事実によれば、<4>一二月三〇日、午前八時五分ころから同九時三〇分ころまでの間、同清掃事務所二階事務室において、大津所長らに対し、原告下原浜雄、同岩本節男、同吉川清政らとともに、「なぜ作業員を就労させたか。」「どこに出勤させたのか。」「指導員になぜ命令したのか。」などと激しく抗議し、また、市当局の指示で配付しようとした年末清掃に関する市民向けのビラの内容につき抗議するとともに、「もし明日作業員が車に乗つたら引きずり降ろしてでも作業を阻止するぞ。」と言うなどして、同所長らの業務の執行を妨害したことが、それぞれ認められる。

原告今浪の右<1>ないし<4>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

4  原告下原浜雄について

原告下原が、一一月及び一二月当時技術吏員(自動車運転手)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労本部執行委員をしていたこと、<1>一一月一三日始業時刻の午前八時ころから、小倉西清掃事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務に就くよう命じたにもかかわらず、原告早川進、同今浪光雄らとともにこれを無視して自己の職務を放棄するとともに、同事務所作業員控室に約一〇〇名の同事務所職員を集めてその職務を放棄させ、勤務時間内職場集会を主宰指導したこと、<2>一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず無断欠勤したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(二)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日午前八時四五分ころ、同事務所構内において、原告下原広志、同早川進、同竹村信芳、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする清掃作業車の前に立ちふさがるなどし、同事務所副所長らが阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつてその出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害したことが、更に、前記三3(二)(2)で判示の事実によれば、<4>一二月三〇日、午前八時五分ころから同九時二〇分ころまでの間、同清掃事務所二階事務室において、大津所長らに対し、原告今浪光雄、同岩本節男、同吉川清政らとともに、「なぜ作業員を就労させたか。」「どこに出勤させたのか。」「指導員になぜ命令したのか。」などと激しく抗議し、また、市当局の指示で配付しようとした年末清掃に関する市民向けのビラの内容につき抗議するなどの行為をし、同所長らの業務の執行を妨害したことが、それぞれ認められる。

原告下原の右<1>ないし<4>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

5  原告竹村信芳について

原告竹村が、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属し、市労小倉支部執行委員をしていたこと、<1>一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄したこと、<2>一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず無断欠勤したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(二)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日午前八時四五分ころ、小倉西清掃事務所構内において、原告下原広志、同下原浜雄、同早川進、同吉川清政、同岩本節男らとともに、作業に出発しようとする清掃作業車の前に立ちふさがるなどし、同事務所副所長らが阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつてその出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害したことが認められる。

原告竹村の右<1>ないし<3>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

6  原告岩本節男及び同吉川清政について

原告岩本及び同吉川が、一一月及び一二月当時いずれも技術吏員(原告岸本は自動車運転手、同吉川は清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属していたこと、<1>一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し自己の職務を放棄したこと、<2>一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず無断欠勤したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(二)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日午前八時四五分ころ、小倉西清掃事務所構内において、原告下原広志、同下原浜雄、同竹村信芳、同早川進らとともに、作業に出発しようとする清掃作業車の前に立ちふさがるなどし、同事務所副所長らが阻止行為をやめるよう命令したにもかかわらず、約四五分間にわたつてその出発を妨害し、同清掃事務所の業務の正常な運営を著しく阻害したことが、前記三3(二)(2)で判示の事実によれば、<4>一二月三〇日、午前八時五分ころから同九時二〇分ころまでの間、同清掃事務所二階事務室において、大津所長らに対し、原告下原浜雄、同今浪光雄らとともに、「なぜ作業員を就労させたか。」「どこに出勤させたのか。」「指導員になぜ命令したのか。」などと激しく抗議し、また、市当局の指示で配付しようとした年末清掃に関する市民向けのビラの内容につき抗議するなどの行為をし、同所長らの業務の執行を妨害したことが、それぞれ認められる。

原告岩本及び同吉川の右<1>ないし<4>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

7  原告矢狭清光について

原告矢狭が、一一月及び一二月当時技術吏員(自動車運転手)として市清掃事業局門司清掃事務所に所属し、市労門司支部書記長をしていたこと、<1>一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄したこと、<2>一二月二九日から三一日までの三日間に行なわれた争議行為に参加し、同三日間、休日出勤命令に従わず無断欠勤したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(一)(1)で判示の事実によれば、<3>一二月二七日午前八時一〇分ころ、門司清掃事務所大里作業所二階作業員控室において、在室の同事務所職員約三〇名に対し、年末清掃作業を拒否するよう原告島内一雄及び佐伯正之市労委員長とともに呼びかけたことが、前記三3(一)(2)で判示した事実によれば、<4>一二月二九日午前八時四五分ころ、同事務所所長村上光良らが、作業員を作業配置につかせるため同控室におもむき、作業員一〇数名に対し、一〇分以内に着替えて作業に就くよう命令したところ、原告松本征幸とともに「今日は仕事はせんのだ。」「仕事をせんといつたらどうするか。」「今日は仕事をせんで帰ろう。」などと言つて就労拒否の呼びかけを行なうなど同所長らの業務の執行を妨害したことが、前記三3(一)(3)で判示の事実によれば、<5>一二月三〇日午前八時一五分ころ、原告島内一雄とともに、同控室出入口において、就労しようとして階段を降りかけた同事務所職員に対して「なぜ組合に協力しないか。」などと執拗に呼びかけて、その就労を妨害したことが、それぞれ認められる。

原告矢狭の右<1>ないし<5>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

8  原告島内一雄について

原告島内が、一二月当時技術吏員(自動車運転手)として門司区役所会計課に所属し、市労本部書記長、市労門司支部支部長をしていたことは当事者間に争いがなく、前記三3(一)(1)で判示の事実によれば、<1>一二月二七日午前八時一〇分ころ、門司清掃事務所大里作業所二階作業員控室において、在室の同事務所職員に対し、年末清掃作業を拒否するよう原告矢狭清光及び佐伯正之市労委員長とともに呼びかけたこと、<2>同日午後三時三〇分ころ、同控室におもむき、在室の同事務所職員ら約五〇名に対し、年末清掃作業を拒否するよう呼びかけたことが、前記三3(一)(2)で判示の事実によれば、<3>一二月二九日午前八時四五分すぎ、同事務所一階作業員控室において、同事務所所長村上光良が、在室の作業員四、五名に対し、一〇分以内に着替えて作業に就くよう命令したのに対し、「いらんことを言うな。」などと言つて右命令の示達を妨害したことが、前記三3(一)(3)で判示の事実によれば、<4>一二月三〇日午前八時一五分ころ、原告矢狭清光とともに、同作業所二階作業員控室において、就労しようとして階段を降りかけた同事務所職員に対して「なぜ組合に協力しないのか。」などと執拗に呼びかけて、その就労を妨害したことが、それぞれ認められる。

原告島内の右<1>ないし<4>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三三条に違反し、同法二九条一項一号、三号の懲戒事由に該当する。

9  原告中野公雄について

原告中野が、一一月及び一二月当時技術吏員(自動車運転手)として市建設局門司建設事務所失業対策課に所属し、市労門司支部副支部長をしていたこと、<1>一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(一)(3)で判示の事実によれば、<2>一二月三〇日午前七時五六分ころ、門司清掃事務所二階作業員控室の出入口付近において、五、六名の同事務所職員に対し「外に出てくれ。」などと言つて就労拒否の呼びかけを行ない、更に、午前八時ころから、同控室内において、原告松本征幸とともに作業準備中の作業員ら約三〇名に対し、組合の出勤拒否の指令に従うようオルグを行なうなどして、同事務所長らの業務の執行を妨害し、また、午後零時四〇分ころ、同事務所二階会議室において同日出勤した作業員らに対し、市労役員らとともに「組合の指令を守れんのか。」「なんで仕事をするのか。」などと出勤拒否の説得を行なつたことが認められる。

原告松本の右の<1>、<2>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当する。

10  原告松本征幸について

原告松本が、一一月及び一二月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局門司清掃事務所に所属し、市労門司支部執行委員をしていたこと、<1>一一月一三日に行なわれた争議行為に参加し、自己の職務を放棄したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、前記三3(一)(2)で判示の事実によれば、<2>一二月二九日午前八時四五分ころ、門司清掃事務所所長村上光良が、作業員を作業配置につかせるため同事務所二階作業員控室におもむき、作業員一〇数名に対し、一〇分以内に着替えて作業に就くよう命令したところ、原告矢狭清光とともに「今日は仕事はせんのだ。」「仕事をせんといつたらどうするか。」「今日は仕事をせんで帰ろう。」などと言つて就労拒否の呼びかけを行なうなど同所長らの業務の執行を妨害したことが、前記三3(一)(3)で判示の事実によれば、<3>一二月三〇日午前八時ころ、同控室内において、原告中野公雄とともに、作業準備中の作業員ら約三〇名に対し就労しないよう呼びかけて所長らの職務の執行を妨害し、更に、午前八時四〇分ころ、同控室内にいた自動車運転手に対し、同事務所業務第一係長木原進が仕事に就くよう命令したところ、同係長に対し「木原、覚えとけよ。家に行くから。」と言つて同係長の職務を妨害したことが、それぞれ認められる。

原告松本の右<1>ないし<3>の行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号ないし三号の懲戒事由に該当する。

11  原告牧野茂夫について

原告牧野が、一一月当時技術吏員(清掃作業員)として市清掃事業局小倉西清掃事務所に所属していたこと、一一月一三日始業時刻の午前八時ころ、同事務所副所長田中信男がマイク放送で勤務につくよう命じたにもかかわらず、原告今浪光雄、同早川進、同下原浜雄とともに、これを無視して約三〇分間にわたり自己の職務を放棄し、同事務所作業員控室において約一〇〇名の同事務所職員を集めて行なわれた勤務時間にくいこむ職場集会を主宰指導したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。なお、原告牧野が約一〇〇名の同事務所職員の職務を放棄させたことについては、本件全証拠によるもこれを認めることはできない。

原告牧野の右行為は、地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当する。

12  その余の原告らについて

その余の原告らの一一月及び一二月当時の所属部局及び職名(職種名)、組合役職(原告石井常夫につき)及び同原告らがそれぞれ抗弁3(一二)記載の(1)、(2)の行為をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

右原告らの行為は、いずれも地公労法一一条一項に違反するとともに地公法三二条、三三条、三五条に違反し、同法二九条一項一号、二号の懲戒事由に該当する。

五  原告らは、本件年末休日出勤拒否が争議行為に該当せず正当な行為である旨主張するので、この点につき判断する。

1  まず、市清掃事業局勤務の清掃作業員らの年末休日出勤義務の存否につき検討する。

右清掃作業員らは地公法五七条に規定するいわゆる単純労務職員たる現業地方公務員であるところ、単純労務職員は、一般職に属する地方公務員であつて(地公法三条、地公労法附則四項)、しかもその勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒、服務等については地公法の規定が全面的に適用されているから、単純労務職員の勤務関係は、基本的には公法上の関係と解するのが相当である。そして、単純労務職員には地公労法(一七条を除く。)及び地公企法三七条ないし三九条が準用されて(地公法五七条、地公労法附則四項)地公法二四条ないし二六条の適用がなく、ただ、給与の種類と基準のみが条例で定めなければならないとされている(地公企法三八条四項)ことからすれば、法は、その他の勤務条件については条例等に反しない限り当該地方公共団体の長の定める就業規則(地方自治法一五条一項、一四八条一項、二条二項、三項一〇号)若しくは当該地方公共団体の長と労働組合との間で締結される労働協約により規律させようとしていると解される。単純労務職員の労働条件については、職員に団体交渉権や労働協約締結交渉権が認められている(地公労法七条)けれども、これらの職員の権利は、当該地方公共団体の長が本来的に有する勤務条件決定権限に一定限度で制約を加え得るものにすぎず、職員に右の権利があることから直ちに当該地方公共団体の長の勤務条件決定に個々の職員の同意を要するものと解することができない。従つて、公法関係である単純労務職員の勤務関係において、当該地方公共団体の長は、条例、労働協約及び労基法の定めに反しない限り就業規則の制定により勤務条件の決定を行なうことができ、右就業規則には私企業における就業規則と異なり地方自治法により法的規範としての効力が与えられているものというべきである。

ところで、労基法三二条には労働時間の制限、同法三五条には休日(いわゆる週休制による休日)についての定めがあるけれども、週休制による休日以外の休日(いわゆる法定外休日)に労働者を労働させる場合に関しては、労基法に何らの規定がなく同法による規制が及ばないから、地方公共団体の長の制定した就業規則ないしは労働協約に法定外休日勤務に関する定めがある場合には、労働条件の基準として個々の職員の同意なくして勤務関係の内容となり職員が法定外休日労働義務を負うことになると解するのが相当である。そして、法定外休日労働について、就業規則ないし労働協約において、日時、労働内容、労働すべき者が具体的に特定されている場合には、右長の休日出勤命令を待つまでもなくそのとおりの休日労働義務が生じるが、概括的一般的な労働義務が定められているにすぎないときは、右長の出勤命令によつて休日労働義務が具体的に生ずるというべきである。この場合、出勤命令により労働を命じられた職員に損失を生ずることもあるであろうから、休日労働を命ずるに当つては職員の個人的利益を考慮する必要のあることはいうまでもなく、職員に出勤しないことについてのやむを得ない事由があるときは右休日労働の義務を免れることができるけれども、職員は、休日出勤命令を受けた後、休日労働の義務を免れるためには右のようなやむを得ない事由の存在について当局に対し告知することが必要である。なお、職員の告知した事由が出勤しないことについてのやむを得ない事由に該当するか否かは、法定外休日出勤を命ずる当局側の必要性と職員の拒否事由の合理性との利益衡量によつて判断するのが相当である。

本件についてこれをみるに、前記三―(一)で認定したとおり、清掃関係職員について適用される北九州市労務職員就業規則一四条は、一二月二九日ないし三一日を休日と定めながらも「業務のつごうにより特に必要な場合」は休日勤務を命じ得る旨の概括的一般的な定めをしているところ、右休日は労基法三五条の「休日」ではなくこの基準を上廻つて休日とされているいわゆる法定外休日であつて、同法三三条、三六条の制限もなければ同法三七条の割増賃金を支払うことも要求されていないけれども、休日となつている日に働かせる以上は割増賃金を支払うことが望ましいので、北九州市においては年末休日に勤務を命じられて勤務した職員に対し給料に加えて特別手当として所定の給与額の一〇〇分の一二五にあたる休日勤務手当を支給するほか勤務一日につき五〇〇円の範囲で市長が定める額を加算して支払つてきた。そして、市の年末清掃は毎年定期的な繁忙期におけるものであつたから、市の清掃作業員に対し年末休日出勤を命ずる必要性があつたことは前記三―(一)で認定したとおりであるところ、弁論の全趣旨によると市当局が昭和四四年一二月二五日清掃作業員に同月二九日ないし三一日の休日に勤務するよう勤務命令書を各人に交付すると同時に都合により出勤できない者は同月二五日、二六日の間にその事由を疎明するよう伝えたにもかかわらず、年末休日出勤を拒否した清掃作業員らはその出勤できない事由を告知・疎明することもしなかつたことが認められる。

してみると、市職員である清掃作業員らには昭和四四年の年末休日出勤義務が存していたものと解すべきである。

2  本件年末休日出勤拒否が争議行為に該当するか否かにつき検討する。

前記三ノ(二)、(三)で認定したとおり、昭和四四年の年末休日出勤についての手当額等の労働条件が市当局と市労との数回にわたる団体交渉によつても合意に至らなかつたことから市労がその主張を貫徹するためその闘争戦術として年末休日勤務拒否の指令を出したので、市労に属する清掃作業員らは、前叙のとおり年末休日出勤義務が存したにもかかわらず、右指令に従つて統一的集団的に年末休日勤務を拒否し、前記三2で認定したように市の清掃業務の正常な運営を阻害したものであるから、本件年末休日出勤拒否は争議行為に該当するというべきである。

3  そして、地公労法一一条一項は後記六で判示するように職員の争議行為を全面かつ一律に禁止しているから、本件年末休日出勤拒否は正当な行為ということができない。

六  原告らは、地公労法一一条一項は単純労務職員等の争議行為を一律全面的に禁止したもので、憲法二八条に違反し無効である旨、仮に地公労法一一条一項が憲法二八条に違反しないとしても、少なくとも憲法二八条に適合するように限定解釈がなされるべきである旨主張する。

公務員の争議行為禁止規定の合憲性に関しては、最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決(昭和四三年(あ)第二七八〇号、刑集二七巻四号五四七頁)が非現業国家公務員についての争議行為を禁止した国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項を、同昭和五一年五月二一日大法廷判決(昭和四四年(あ)第一二七五号、刑集三〇巻五号一一七八頁)が非現業地方公務員についての争議行為を禁止した地公法三七条一項を、同昭和五二年五月四日大法廷判決(昭和四四年(あ)第二五七一号、刑集三一巻三号一八二頁)がいわゆる三公社五現業の職員についての争議行為を禁止した公共企業体等労働関係法一七条一項をそれぞれ合憲である旨判示しているところであるが、その趣旨に照らせば、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員につき争議行為を一律全面的に禁止した地公労法一一条一項が合憲であることは明らかであつて、当裁判所もこれと同様に解するものである。

すなわち、地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員及び単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員(以下両者合わせて単に「職員」という。)も憲法二八条の勤労者にあたるというべきであるが、職員も地方公務員であるから、身分取扱い及び職務の性質・内容等において非現業の地方公務員と多少異なるところはあつても、実質的には地方の住民全体に対して労務提供の義務を負い、公共の利益のために勤務するものである点において両者間に基本的相異はなく、職員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性及び職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた住民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあることは、他の非現業の地方公務員、国家公務員ないしいわゆる三公社五現業の職員の場合と選ぶところはない。

そして、職員は、非現業の地方公務員と同様に、議会制民主主義に基づく財政民主主義の原則により、給与その他の勤務条件が法律ないし地方議会の定める条例、予算の形で決定さるべき特殊な地位にあり、職員に団体交渉権、労働協約締結権を保障する地公労法も条例、予算その他地方議会による制約を認めている(地方企法三八条四項、地公労法八条ないし一〇条等)。また、職員の職務内容は、利潤追求を本来の目的としておらず、その争議行為に対しては、私企業におけると異なり使用者側からのこれに対抗する手段を欠き(地公労法一一条二項)経営悪化といつた面からの制約がないのみならず、いわゆる市場の抑制力も働らく余地がないため、職員の争議行為は、適正に勤務条件を決定する機能を果すことができず、かえつて議会において民主的に行われるべき勤務条件決定に対し不当な圧力となり、その手続過程をゆがめるおそれもある。従つて、職員の争議行為が、これら職員の地位の特殊性と勤労者を含めた住民ないし国民全体の共同利益の保障という見地から、法律により、私企業におけると異なる制約に服すべきものとすることもやむをえないものといわなければならない。

そしてまた、職員についても、憲法によつてその労働基本権が保障されている以上、この保障と住民ないし国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは、憲法の趣意であると解されるから、その労働基本権の一部である争議権を禁止するにあたつては、これに代わる相応の代償措置が講じられなければならないところ、現行法制をみるに、職員は、地方公務員として法律上その身分の保障をうけ、給与については生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して条例で定めなければならない(地公企法三八条三項、四項)とされている。そして、特に地公労法は、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会によるあつ旋、調停、仲裁の制度を設け、その一六条一項本文において、「仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない。」と定め、更に同項但書は、当局の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については、一〇条を準用して、これを地方公共団体の議会に付議して、議会の最終的決定に委ねることにしている。これらは、職員ないし組合に労働協約締結権を含む団体交渉権を認めながら、争議権を否定する場合の代償措置として、適正に整備されたものということができ、職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないというべきである。

以上の次第であつて、地公労法一一条一項による争議行為の一律全面的な禁止は憲法二八条に違反するものではないと解する。

従つて、原告らの地公労法一一条一項違憲論及び同項を限定的に解釈すべきことを前提とした合憲論の主張は採用することができない。

七  原告らは、公務員の争議制限の代償措置が機能を喪失していることを前提にして、かかる事態の是正を図る目的で本件一一月一三日の争議行為に訴えたものであるから、右争議行為に地公労法一一条を適用することは憲法二八条に違反する旨主張するので、この点につき判断する。

地方公務員に対する争議制限の代償措置として講じられているものは、単に人事委員会などによる給与引上げの勧告制度だけではなく、地公法上、身分、任免、服務その他の勤務条件について地方公務員の利益を保障する定めがなされていることも含むものである。そして、人事院の給与引上げの勧告の実施状況が、原告ら主張のとおりであつたにしても、本件争議行為以前の昭和四一年から昭和四三年までの実施時期についてみると、昭和四一年については四か月、昭和四二年については三か月、昭和四三年については二か月とそれぞれ勧告時期より遅らせられていたけれども、徐々に勧告時期に近ずいており、また、引上げ率については、おおむね勧告に従いその内容どおりに実施されてきたことは弁論の全趣旨により明らかである。

してみると、右のような状況をもつて、本件争議行為当時、代償措置がその本来の機能を喪失している事態を生じていたものと解することができないから、原告らの主張は前提自体において失当であり、その余の点につき判断するまでもなく採用することができない。

八  原告らの懲戒権の濫用の主張について判断する。

地方公務員につき、地公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行なうかどうか、これを行なうときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されており、その裁量が恣意にわたることをえないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第五二号同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

一一月一三日の争議行為は、当局の警告、中止命令を無視して全市的に多数の職員が参加してなされたもので、原告早川進、同下原広志、同今浪光雄、同下原浜雄、同牧野茂夫はこれを主宰指導するなどして積極的に関与し、別表(一)記載のその余の原告ら(但し、原告島内一雄を除く。)及び別表(二)、(四)記載の原告らはこれに参加して自己の職務を放棄したものである。

ところで、本件において原告らの各行為とこれに対する各処分を通観すれば、本件各処分がなされるにあたつては、一二月二九日、三〇日及び三一日の争議行為への関与の程度と態様が重要な情状として考慮されたと思料される。そこで、右争議行為につきみるに、清掃作業は、通常の場合であつてさえ、その業務の停廃が直ちに住民生活に影響する公共性の強い業務であるところ、右争議行為は、清掃作業の必要性が特に大きい年末において三日間にわたりその作業を拒否する(市清掃事業局所属の清掃作業員、自動車運転手たる原告らが右三日間の休日労働義務を負つていたこと前述のとおりである。)という形態で実施されたもので、これにより正常な清掃業務の運営が著しく阻害され、ごみ収集については管理職の動員等によりどうにか市民の非難を受けない程度に実施されたが、し尿については作業がかなり遅延し、その市民生活への影響は軽視できないところである。なお、本件年末勤務の勤務条件についての団体交渉において、市当局の態度がいささか硬直であつたことは否めないが、これをもつて市当局が誠実に団体交渉に応じなかつたということはできない。

従つて、右争議行為に単純に参加したものとはいえ、休日出勤命令に従わず、年末三日間を通して無断欠勤した別表(二)、(三)記載の原告ら(なお、別表(二)記載の原告らは一一月一三日の争議行為にも参加)に対しなされた給与日額二分の一の減給、右三日間のうち一日又は二日間無断欠勤した別表(四)、(五)記載の原告ら(なお、別表(四)記載の原告らは一一月一三日の争議行為にも参加)に対しなされた懲戒処分中最も軽い戒告の各処分は、右の事情を考慮すればやむを得ないというべきである。

小倉西清掃事務所における一二月二九日の清掃作業車の出構妨害は、争議の経緯及びその状況に鑑みれば、専ら年末清掃業務の妨害を意図してなされたこと明らかであり、約四五分間当日の作業開始を遅れさせるなど現実に業務の遂行を妨害したものである。また、同事務所における同月三〇日の作業員の集合場所及び市民向けのビラ配付に対する抗議は、その態様において穏当を欠くものであつたと認められる。従つて、右出構妨害に参加した原告早川進、同下原広志、同今浪光雄、同下原浜雄、同竹村信芳、同岩本節男、同吉川清政(原告今浪光雄、同下原浜雄、同岩本節男、同吉川清政は右抗議行動にも参加)の情状は重く、右原告らに対してなされた停職六月ないし二月の各処分は右各原告らの行為の態様、組合役職等の事情に照らせば、社会観念上著しく妥当を欠いたものということはできない。

そして、原告矢狭清光、同島内一雄、同中野公雄、同松本征幸に対しなされた各懲戒処分も、右原告らが年末の一二月二七日、二九日及び三〇日の三日間中に清掃作業員らに対し不就労の呼びかけをするなどして争議行為に積極的に関与したものでその情状は軽くなく、右各原告らの行為、組合役職等の事情に照らせば、右原告らに対してなされた各処分が懲戒権を濫用してなされたとまでいうことはできない。

以上のとおりであつて、原告らに対する各懲戒処分は、争議行為の性質、態様、各原告らの組合役職(その地位にあるものについて)、争議行為への関与の程度及び態様等に応じてなされたものと考えられ、これらが社会観念上著しく妥当を欠いているということはできないから、原告らの裁量権濫用の主張は失当というべきである。

九  よつて、被告のなした本件各処分には違法な点はなく、右各処分の取消しを求める原告らの本件各請求は理由がないから、いずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻忠雄 湯地紘一郎 林田宗一)

(別表省略)

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